いつもの電車に乗り、いつもの時間に駅に着く。
地下鉄への乗り換えのため、改札へと、いつものリズムで歩を進める。
慢性的な運動不足を少しでも解消する目的で、エスカレーター横の階段を登るのが日課だ。
よく考えると、その登る位置さえも同じであることに気付く。
そこに安心感を無意識に抱いているのか。
いつものことながら、朝の通勤ラッシュ、数え切れない人・人・人。
おそらくは同じ時間帯を共に過ごして居るかも知れないあかの他人と幾度となくすれ違うのも、日常なのだ。
とそこに、真っ白、いや、純白と言って良いほどの、衣装かと思わせる上下に身を包んだ女性が階段の上方から降りてくる。
25歳ぐらいだろうか。
この通勤ラッシュ時に、あまりにもそぐわない出で立ちに、つい目で追ってしまう。
段々と近づくその姿が2メートルほどの距離まで縮まったとき、ドクンと胸が鳴るのを覚える。
端正な顔立ちからは、全く感情を見せないが、その頬を伝う一本の線がクッキリと浮き出ているのだ。
服装もさることながら、月並みな表現だが、まさに透き通るような白い肌とは対象的に、目がほんのり赤い。
先を急ぐでもなく、また、その流れる涙を拭うこともしない。
ただ、周りの人の波に同化するかのように階段を一歩、また一歩降りていく。
すれ違いざまの、ほんの一瞬の出来事。
彼女に何があったのか。
いや、これから向かう場所、もしくは会う人へのものなのだろうか。
涙を流していることに甘えないその堂々たる容姿に、思わず振り返ろうとする自分がいたが、いやいや、それは、彼女の生き様に対して無礼だろう。
おそらく、あの涙は、彼女にとって、何かの区切りの表れであったように思えてならない。
そうでなければ、人ごみの中をわざわざ晒す必要もないからだ。
あくまでも想像だが、彼女は強くて、弱い。
知られたくないけど、知って欲しい。
そんな葛藤の中、出した結論とこれからの人生を共に歩いていく決心を、あの時していたのかも知れない。
もう二度とは会わないであろう彼女の、その前途に幸せがあることを、心から祈るばかりだ。
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